僕は君を幸せにすると、この空に誓うよ――。
Under the blue sky
4
空はもう、日が落ちてきていた。
薄紫から藍色へと姿を変えながら。
「ごめんね…そんなこと言わせて…」
「ううん。不二君に言っても、なぜか辛くないんだよね。」
そう笑顔でさんは僕に言ってくれた。
ホントは、君にこんなこと言わせたくなかった。
辛い、過去の思い出――。
さんの過去にそんなことがあったなんて、僕は正直驚いた。
その過去を乗り越えて、さんは今もちゃんとここにいる。
「さんは、まだ付き合う気ないんだよね?」
「…うん。今は、まだ…。」
「僕が君を好きだと言っても?」
「え…」
さんは僕の言葉にとても驚いていた。
さんはきっと僕の突然の言葉に戸惑っていたと思う。
僕は、君を困らせたいわけじゃないんだ。
ただ、君を僕のものにしたいのかもしれない…。
「不二君が、あたしを?」
「うん。好きだよ。誰よりも。」
「でも…あたし今は…。」
「それは亡くなった彼をまだ想っているから?それとも、亡くなった彼に悪いと想っているから?」
「…両方…かな。正直言うとね、まだ忘れられないの。昨日のことみたいに思い出す。
でも…今付き合いたくないのは、それだけじゃないよ。」
「それだけじゃない?」
「うん。また…またあの時と同じことは繰り返したくないの…。」
そう告げるさんは、とても悲しそうだった。
それからさんは僕に話してくれた。
交通事故だったこと。不運だったらしい。
ちょうど信号を待っていた所にトラックが突っ込んで来たらしい。
さんは電話でその知らせを受けた。
「私ね、その時自分がどうしていいのかわからなかった。
だから、彼を見送ったあと海へ行ったの。そして空を見上げてた。」
僕はその時のさんを見ていたんだ。
とても印象的だった。後ろ姿だけだったけど、とても悲しそうだった。
「彼はね、空がとても好きだったの。だから、この綺麗な空の下にいれば私の所に戻って来てくれる気がしてた。」
さんの瞳から一粒の雫が零れ落ちた。
「それでも、空を見る度悲しくなるの。あぁ、もうこの世に彼はいないんだなぁ…って…」
僕には、泣きながら話すさんが、とても綺麗に見えていた。
「またこんな想いをしちゃうんじゃないかと思って、いつのまにか恋に向き合えなくなってた。」
僕の方をみて、さんは言う。
「それは、恋に逃げてるだけでしょ?」
「え…」
「誰もがその道を通るとは限らないよ?僕は…絶対さんを悲しませるようなことはしない。
例え、事故にあっても…さんを置いて先には行かない。」
僕は真剣にさんを見ながら言った。
さんは驚いてるようだった。
「僕はさ、君を幸せにしたいんだ。今ならそうできる自信がある。君の笑顔を絶やさないことだってできる。」
「でも…怖いよ。好きな人を失った気持ちはすぐには忘れられない。」
「忘れなくていいんだよ。」
「え…?」
「だって、忘れたら彼が可愛そうでしょ?君を愛してたんだから。」
僕は僕なりの笑顔でそう言った。
「不二君は優しいね。」
「これも君を想うがため…かな?」
「ふふっ。…ありがとう。」
「今度、彼が好きだった空を一緒に見に行ってもいいかな?そして、その空の下で誓ってもいいかな?」
「何を?」
「"を幸せにします"って。」
さんはすごく驚いてた。
でもさ、これが僕の本当の気持ちだから。
「僕がずっと君を守るよ。」
「…お願いします。」
さんは僕にそう微笑みながら言ってくれた。
僕は、必ず君を幸せにしてみせる。彼のためにもね。
日曜日、僕たちはさんの彼が好きだった空を見るため、海に行った。
「ここが、彼が好きだった空の場所。」
「この場所で、初めて君を見たんだよ。とても悲しそうだったけど、とても綺麗だった。」
「すごく悲しかった。でもね、今なら笑っていられるよ。不二君と一緒だから。」
僕たちは小さな丘の上に立ち、空を仰ぐ。
そこには雲ひとつない青空が広がっていた。
「ね、ちょっと手貸して?」
「え?」
僕はさんの手を取り、空へ掲げた。
手にはさっき来る途中、露店で買った指輪をはめて…
「僕はこれからずっと、一生をかけてを幸せにします。」
「不二君…ありがとう。」
雲ひとつなかった空には雲がひとつぽっかりと浮いていた。
まるで彼が青空から僕たちを祝福しているかのように…。
さんの瞳には、綺麗な雫があった。
ここでの誓いはホントだよ。君を一生かけて幸せにするから。
この青空の下、君とずっと生きていく――。
End
++あとがき++
やっと終わりました!ここまで読んで頂き、有難うございます!
とか、言いつつ。番外編があったりなかったり(どっちだよ)
このお話は、メルマガで配信していたモノに少し手直しを加えた作品です。
|