君への想いは、今にも溢れそうだよ――。
Under the blue sky
3
彼女の一言が頭の中で何度も繰り返される。
『その天使はね、とても不二くんに似ていたの――。』
でも彼女は夢だと思っている。
彼女が話した夢の話。それは本当のことなのに――。
僕は君にキスしたんだ。君をスキだから。
この言葉を言えたらどんなに楽か。
でも言えない。君を困らせたくないから。
もっと君を知りたい。伝えたいこの想い――。
「さん。聞いてくれるかな?」
「ん?どうしたの?」
「僕は―――」
僕は彼女に心の内を話そうとした。
その時、彼女の友達が呼びに来た。
「あ。、こんな所にいたの?探しちゃったよー。」
「え。あ、ごめん。で、何か用事?」
「ちょっと用事って…まさか忘れてるわけ?」
「え?なにかあったっけ?」
「あったもなにもあんたお昼休み呼び出されてたじゃない。」
「あ。そうだった…。」
「ほら、もう時間だし行かないと。ごめんね不二君。」
そう言って彼女の友達は僕に一言。
「それじゃ、不二君。話の続きはまた今度ね。」
そう笑顔で言って彼女は屋上を後にした。
屋上に残された僕はすぅーっと高く伸びた空を眺めていた。
英二は僕たちが話しているうちに屋上を去っていた。
多分、大石の所にでも行ったんだと思う。
とっくに5時間目の本鈴もなり終わってしまった。
僕は屋上でこの時間をサボることにした。
今思うと、僕はさんを好きなんだ。
どこが好きなのかと聞かれればすぐさま「笑顔」と答えるだろう。
彼女の笑顔は優しく、暖かく、包み込んでくれる様な心に染み渡る笑顔。
僕はその笑顔を独占したいのかもしれない。
「僕って束縛主義だな――」
なんて言って、ちょっと苦笑い。
空は澄んでいて、今の僕の心とは裏腹。僕の心はどよんだ曇り空だよ。
君を僕の物に出来たら、僕だけの物に出来たら――。
でも気持ちを打ち明けることは出来ない。
君を困らせたくないから。―――今はね。
今は打ち明けないよ。この気持ち。
君をもっとよく知ってから、僕をもっと知ってもらってから。
それから君への想いを打ち明けようかな。
5限終了のチャイムが鳴った。
「そろそろ戻らないと…ね。」
僕は空をみてつぶやいた。少し、この場を離れるのが名残惜しそうに。
教室に着くと、英二が僕の方に駆け寄ってきた。
「ふーじー!!さっきの時間どこ行ってたんだよ!」
「え?うん、ちょっとね?」
「もう!あ、そだ。さっき昼休みにさんがなんだか告白されてたみたいだよ?」
「え…」
さんが告白された?誰に?
あぁ友達が迎えに来たのはコレだったんだ…。
「ふーじー?」
英二が僕の目の前で手をひらつかせていた。
僕は…大丈夫…かな。
「大丈夫だよ」
英二が心配そうに僕を見ているから、安心させようと言ってみた。
でも。やっぱり、少しは辛いよ。結果がどうであれ、さんが告白されたんだから。
僕は6時間目の授業中、ずっと頭から離れなかった。
さんはどう答えたの?
僕は君が好きなんだ。
そろそろ打ち明けようかな。僕のこの気持ち――。
私は不二君とお昼休みに話をしていた。
私が見た、夢の話――。
天使が私の前に現れて、そっとキスした話。
その天使はどこか不二君に似ていたんだよね。
それは本当に夢だったのかな――?
私はお昼休みに別のクラスの男子から告白された。
突然だった。朝学校に来たら机に手紙が一通。
『今日、お昼休みに体育館の横にある、大きな木の下で待ってます。』
たったそれだけ、その一言だけ。
前にもあった。同じようなことが――。
でも、今回も前と同じ。行ったらすぐに告白された。
返事もまた前と同じ『ごめんなさい』の一言。
相手には悪いけど、あたしはまだ付き合う気がないから。
前と同じ後悔はしたくない――。
僕は午後の授業はずっと窓の外を見ていた。
もう陽も少しづつ暮れて来て、空が青から薄紫へと変わり始めていた。
何もなかった空に、雲がひとつふたつ浮いていた。
沈み行く陽を悲しそうに見ながら、寄り添っているように――。
放課後、さんが僕の所に来た。
「不二君、お昼は途中でごめんね?」
「ううん。大丈夫だよ。それより…その…さんは今、付き合う気…ないの?」
「え…――」
「今日、断ったんでしょう?告白…。」
「うん。正直言うとね、今は誰とも付き合いたくないの。」
「その理由、聞いてもいいかな?」
さんは少し戸惑って下を向いた。
けれど、すぐに顔をあげて「不二君にならいいかな」と言ってくれた。
「あたしね、昔大切な人を亡くしたことがあるの…」
とても悲しそうに言うさんを見ているのは、なんだか心が痛んだ。
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