ふんわりと香ってくるその甘酸っぱい香りは

春を思わせるのと同時に

君の笑顔を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

   苺の香りに誘われて

 

 

 

 

 

 

 

もうだいぶ雪も溶けて、アスファルトがその身を太陽に晒す。

快晴の青空を見上げれば、大きく輝く太陽が

眠そうな目を擦りながら歩く、俺を見下ろしていた。

 

 

昨日も朝練、今日も朝練。

毎日毎日テニスに触れていられることは嬉しいこと。

だけど、朝の苦手な俺にとって朝練こそ辛いものは無かった。

いや、勉強はそもそも毎日いつだって辛いんだけどさ。

 

それに放課後の部活だって、毎回グラウンドを走らされることになるし。

俺が何したんだっつーの!

 

そんなちょっとした愚痴を悶々と浮かべながら、校門を抜ける。

俺はそのまま朝練へと直行すべく、コート横にある部室に向かった。

 

 

 

 

 

「あれ?英二今日も早いね。」

 

部室のドアノブに手をかけようとするところで、その声に振り向く。

振り向けば見慣れた黄色いボールをいっぱいに入れたかごを抱えるように持つ、

同じクラスのがいた。

ここ最近、女子部も大会が近いのか、朝練をしているようだ。

 

 

「毎日サボらないで良く来るね。」

 

朝から見るにはとても眩しく、そして爽やかな笑顔を俺に向けて微笑む。

そんなお前の笑顔が、俺の心拍数を上げてるってわかってんの?

わかってないからそうやっていられるんだろうけどさ…。

 

 

「じょうがないじゃん?来なきゃ後々走らされるんだしさ。」

「それもそうだね。」

 

おい。

あまりにも物分りが良すぎなんじゃないの?

 

 

「男子部は最強ですからねぇ。お陰で女子部にはいいプレッシャーよ。」

 

その台詞は毎回手塚に言ってたような気がする。

女子部と男子部のコートはフェンスを挟んで隣同士。

だからと言っては言い訳にしかならないけど、応援にくる女生徒たちの所為で

女子部がいくつか困っている所があるらしい。

手塚から伝え伝えで聞いたから、確実な筋だとは思うけど。

 

 

「お前だってなぁ…」

 

そこまで言ってやめた。

「だからなに?」そう返ってくるに決まってる。

とはそういうヤツなんだ。

 

容姿端麗のくせに自分のこととなると、ものすごく鈍感。

毎日の如く届くラブレターも単なる嫌がらせと思い込み、即ゴミ箱へin。

そんな行動を傍から見てる俺としては、

に送ったラブレターの差出人に同情すら覚える。

ま、潔いことはいいことだと思うけどね。

…俺としても嬉しい、けど。

 

あぁ!!何考えてんだ、俺!!

 

 

「ど、どうしたの!?」

 

が俺の顔を慌てて覗き込んでくる。

その勢いでかごから2、3個のボールが零れ落ちた。

 

 

「どこか具合でも悪いんじゃないの?」

「えっ!?あ、あぁ!!大丈夫だって。」

「そう?」

 

「すっごい百面相だったよ?」と言いながら、

零れ落ちたボールをかごへと戻す。

俺って、感情が顔に出るタイプだったんだ…って。

そんなことはどうでもいいんだよっ!!

 

ボールをひとつひとつ丁寧に拾い上げる姿が、

やけに愛しく感じてしまう。

 

 

 

 俺は、いつからこんなに好きだったんだろう。

 

 

 

ふとそんなことを考えてしまうほど、

俺の中のの存在が大きいことを実感してしまう。

 

そのとき、ふと香った甘い香り。

 

 

「なぁ、お前なんか食ってる?」

「え?」

 

ボールを拾い終えて、俺の問いに疑問符を浮かべながら

視線を交わす。

 

 

「別に何も食べてないよ?」

「あれ?なんか甘い香りがしたのに。」

 

そう言いながら俺はへと詰め寄る。

香りの出所をさがして、の周りを一周。

 

 

「やっぱりから香るよ!」

「え〜?…あ。ねぇ、それって苺っぽい?」

「え、あぁ。苺っぽいかも。」

 

「それなら〜」

 

そう言って自分の髪を俺に近づける。

その時また香った、甘い苺の香り。

 

 

「最近シャンプーを苺の香りにしたんだぁ。」

 

「どう?」そう言いながら俺の前で髪を梳くが、

なんだかふんわりして見えて、可愛かった。

 

 

「良い香りだね。」

「でしょ〜?かなり気に入っちゃってるの。」

 

笑顔で返してくるに、俺も自然と笑顔になるのがわかる。

 

いつからこんなに俺の中の君の存在が大きくなっていたんだろう?

自分でも気づかないうちに、こんなにも想いが募っていたなんて。

 

 

「あの、俺…さ。」

「うん?」

 

そこまで言って一旦口を閉じる。

なんて言えばいい?

だって目の前にいるは、開くことも無くラブレターを捨てるヤツだ。

俺がストレートに告白して、返事をもらえることができる?

ちゃんと言えたとしても「そうなの」とでも、返されそうだ。

 

 

「ねぇ、英二。」

 

俺が一人で云々悩んでいるのを見計らったのか、

がちょっと笑いながら口を開いた。

 

 

 

「英二、私のこと好きでしょ。」

 

 

 

え?

 

俺の思考回路は遮断されたも同然。

な、なんでの口からそんな言葉が出てくんのー!?

確かにから紡がれた言葉は、

「でしょ?」の疑問系ではなく「でしょ。」の確定系。

いや、間違いではないんだけど…さ。

 

 

「なっなんで?」

「あ、違ってたら本当ごめんね?」

「い、いや。違わないけど…さ。」

 

人差し指で頬をかく俺を見て、

またふっと目を細めて微笑みながら続ける。

 

 

「だって、英二の顔に書いてあるもん。」

 

 

え…。

俺ってそんなに顔に出るタイプだったんだ…。

そんな俺を尻目に、はくすくすと笑う。

う゛ー。そんなに笑わなくてもいいじゃんかぁ。

 

 

「いつから気づいてた?」

「そうだねぇ。春休み明けくらいから、かな?」

「ちょっと前からじゃん!」

「うん。なんか英二の視線が気になっててさ。」

「うわー。俺ってバレバレなんじゃん!!」

「そこが英二のいいところでしょ?」

 

「素直なところが」そう続けるの笑顔が、春風にとっても似合ってた。

苺の香りが春風に乗って、俺へと届く。

 

 

「で、続きは?」

 

 

そのままの笑顔で聞いてくるにつられて笑顔する俺は、

まっすぐの笑顔を見て、ひと言を告げる。

 

 

「俺と、付き合ってください。」

 

 

 

 

 

まるで春に手助けられたような感じで、

その風に乗った甘い香りが俺を包む。

 

綺麗な髪に手を添えて、優しく両手でを包み込む。

俺の腕の中で微笑むが、愛しく思えた。

 

 

苺の香りと共に、

俺にもようやく春が来ました。

 

 

 

 

 

End

 

 

 

 

 

++あとがき++

Spring Dream Festival 2006 参加作品。

参加させて頂き、ありがとうございました!!

“甘い春”をイメージしたつもりです。笑

 

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