ずっと君のそばにいて
君を笑顔にさせるから――


 





     
 

 





「もうすぐ卒業だね…――」




そう呟いたのは、今年青春学園中等部卒業を迎える
3年、



「そだね…――」




そう呟くのは、のクラスメイト兼彼氏でもある
青学テニス部3年、菊丸英二。
 




「なんかさ。この桜の木を見ていると、これが咲く頃にはもうここに居ないんだなぁ…って思っちゃってさ。」
「この桜が咲いたら、俺達はここに居ないんだよな…――」

「うん…―――」



2人の間に静かに時間が流れていく。
時折、少し暖かい春風が2人に吹く。
目の前の桜の木は、少しの芽吹きがあるくらいで、
まだ咲くまで当分かかりそうな、青々とした葉を茂らせている。



「卒業したらさ、、鹿児島に行くんでしょ?」



菊丸が急に口を開き、問いかけた。
その問いかけに、は驚いた。



「ど、どうして知ってるの!?私…英二に言えなかったのに…」
「ごめん。不二から聞いてて、1月くらいから知ってたんだけどさ。

 の口から直接聞きたかったんだけど、…言ってくれそうになかったから…さ――」
「ごめん…」

「でも仕方ないよ。家の都合だし、だけここに残るわけにもいかないっしょ?」
「…うん。お父さんに頼んだんだけど、一人で残すのは心配だって。」
「そうだよな…。俺だってが一人だと心配だし…」
「英二…ごめんね――。ずっとそばにいたかった…」
「いいよ。仕方ないじゃん?――…って、言いたい所だけど…」



菊丸はそこまで言うとを抱き締めた。



「やっぱり正直言って辛いよ?大好きな人と離れるのは。でもさ、一生会えないわけじゃないじゃん?

 会いたいと思ったら会えるでしょ?俺はいつでもの所に飛んで行くよ――」

「うん…ありがとう…ありがとう、英二。」



そう言っては一粒の雫を落とした。
輝く雫の道を頬につけて――。
菊丸も、少し瞳を潤ませていた。
でも、決して涙は見せない。のために…――。







この2ヶ月後、2人は卒業式を迎えた。


 

 

 

 

 




―――――卒業式。



『3年6組、菊丸英二』
 


「はい」



はっきりと大きな声で返事をし、卒業証書を受け取る。
そんな菊丸を、はしっかりと目に焼き付けていた。
歩く一歩一歩、揺れる髪、大きな瞳、頬の絆創膏。
いつもの笑顔ではなく、真剣な表情の菊丸。
そんな菊丸が、にはやけに男らしく見えていた。



菊丸を見ていると、色んなことが込み上げてきた。

 



1年の時、菊丸と同じクラスになってからは菊丸を好きになっていた。
ライバルも多い中、思い切って気持ちを菊丸に届けた。
すると、菊丸も同じ想いで――。
それから、どこに行くにも一緒だった。

初めてキスをした日。
お互い、相手を愛しく思った。この時間が何時までも続けばいいと思った。
初めてひとつになれた夜。
幸せでいっぱいだった。もう他に望むことはなかった。

「英二がそばにいればそれでいい――。」

菊丸も同じ想いだった。

がいれば何もいらない――。」


 




そして今、卒業式が幕を閉じた。

 

 

 




卒業式が終わり、2人は屋上へと足を運んだ。



「あーついに卒業しちったぁ〜」

「そうだね――」



2人は寄り添いながら、大きな桜の木が見える所に腰を下ろした。
風になびく桜の花びらが、やけに綺麗に青空を舞っていた。



「やっぱりこの桜が咲いた頃だったね。」
「うん。ねぇ、英二。」
「ん?どした?」
「ボタン…頂戴?」
「え?あ、これ?」



そう言って菊丸は自分の学ランの第二ボタンを指差す。



「うん。私が貰ってもいい?」
「もちろん。」



そう言って菊丸はブチッとボタンを外し、に手渡した。



「これだけでいいの?」
「うん。何か英二の物を持っていたいの。」
「そっか。じゃぁ、俺も――」



菊丸はに触れるだけのキスをした。

 



のこと、忘れないよ。」

「英二…ありがとう。私も絶対に忘れないよ。」



2人は桜の花びらが舞う中、抱き締めあった。
お互いのぬくもりを忘れないように――。



「本当は…本当は、英二と離れたくない。ずっと、ずっとそばにいたいの。」
「うん。」
「でもね…行かなきゃならないの――」



そう言っては菊丸から離れた。



「私がこの先、恋をするのはきっと英二だけだから。これからも、この先も英二しか想わない。ううん、想えない。」



は切な気に笑って言う。



「俺も同じ。この先ずっと、しか愛せない。」







そう言葉を交わした2人にも、次第に距離が出来ていた。
お互いはとても想い合っていた。だが、お互いの居る場所が遠過ぎた。
会いたければ会えると思っていた2人だったが、現実問題、その距離は遠すぎる。


そして、次第に連絡も取らなくなっていた。


 

 

 

 

 

 







月日は流れ、は20歳になり、元の家に戻ってきた。


は久しぶりに青学へと足を運んでいた。
教室をまわり、テニスコートへ行った。
懐かしい思い出が脳裏をよぎる。


コートを見ていると、菊丸の姿が浮かぶ。
アクロバティックプレーで相手を魅了し、愛嬌のある笑顔が
試合になると一変して男の子の顔になる。

はそんな菊丸が大好きだった。


思い出すと、瞳から涙が零れ落ちた。
その涙は、この場所の懐かしさと菊丸への想いが混じったモノだった。
はまだ、菊丸を想っていた。



最後に交わした言葉のように、鹿児島に行く前に誓った言葉のように
今までで、が恋をしたのは、愛したのは菊丸ただ一人だった。

 



「英二…今頃どうしてるかな…――」



空を見上げて呟いた。
そして、ふと思い立ったように、は屋上へと足を運んだ。
それは、足元に落ちてきたモノを見つけたから。

 

 

 




桜の花びら――。


 

 

 



最後に菊丸と見た桜を見るために、は屋上への階段を駆け上がった。




 

 

 

 



ギィ――…


重たいドアを開けると、目の前に広がるのはあの大きな桜の木。
懐かしさと切なさを秘めている桜。

大きな桜の木を、は切な気に眺めていた。




すると――


 


?」


誰も居ないはずの屋上から声を掛けられた。

は驚き、振り返るとそこには――




「え、英…二?」



あの頃の笑顔そのままの菊丸がいた。



「あ。やっぱりだ。なーんか綺麗になってて最初誰だかわかんなかったよ。」
「英二こそ…またかっこよくなってるじゃない。」
「へへ…そっかにゃ?」
「うん。あの時よりずーっとずっとかっこいい。」



は笑顔で菊丸に言う。



「久しぶり。」
「うん、久しぶり。」
「前会ったのなんて中学の卒業式だよ?ずいぶん昔だよな。」
「うん。何年も前だけど、こうしてまたここに2人でいると、なんだか昨日のことみたいだよね。」



2人は笑い合った。
菊丸の変わらない笑顔に、は確信しつつあった。

 




 


“私が愛せるのはこの人しかいない――”

 

 





「俺さ、が鹿児島に行ってから今までずっと、春になって桜が咲いたらここに来てたんだ。」
「え。なんで?」
「なんで?って言われると、ちょっち言い辛いんだけど…――との思い出に浸ってた…って感じかにゃ?」



そう言って菊丸は照れくさそうに頬をかく。



「そうだったんだ…」
「あとさ、に渡そうと思ってたのを、いつも持ってきて桜に見せてた。」
「何持ってきてたの?」

「これ。」



菊丸はズボンのポケットからひとつの白い小さな箱を取り出した。
そして、に手渡した。



「開けてみて?」



は言われた通り箱を開けてみた。
すると、中に入っていたモノを見るや否や、の瞳から大粒の涙が零れた。



「英二…これ…」
「それさ、実は俺達が20歳になったらここで渡そうと思ってたやつなんだけど、ホントにここで渡せちゃったよ。」
「ホントに私がもらってもいいの?」
「いいに決まってるじゃん。俺さ、しか愛せないって言ったよね?それにさ、が鹿児島に行ってから色々考えたんだよね。」
「何、考えたの?」
「俺さ、今度と出会うときがあるなら、もう絶対傍を離れないって決めたんだ。の傍にいて、ずっとを笑顔にさせようって…」
「ありがとう…英二。」
「ね、ちょっと貸して?」



そう言って菊丸はから白い箱をあずかり、自分の手に握った。



「俺さ、まだちゃんとから返事聞いてないんだけど?」



菊丸はを大きな目でまっすぐ見た。

 

 

 

 





。俺と結婚して下さい。」
 

 

 

 

 




真剣な男の子、いや、男の顔の菊丸には笑顔で『はい』と答えた。



桜の花びらが舞う季節の中、2人が校舎を出る時
の左手の薬指には、キラキラ光る銀のリングがあった。


2人は幸せそうに手を繋いで校舎を後にした――。


 

 



ずっと君のそばにいるよ

君を笑顔にするから

桜舞う季節をかぞえて

これからは君と二人で歩いていくよ




桜舞うこの季節の中を

君の手を取って―――。

 

 




End

 

 

++あとがき++

我慢出来ずにupしちゃいました(笑)もう少し短いハズが、こんなに長く;

なんかこういう展開って憧れませんか?実はこの話、実話なんです。そこに少し手を加えました(笑)

(2004,5,20 一部改正)

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