冬空の下、恋人同士の特権を使ってみようか。
Hand
「寒い!さーむーいー!!」
青春台駅改札口前9:25。
一人の女の子が密かに叫んでいた。
彼女の名前は。
青春学園中等部3年、そして男子テニス部マネージャーでもある。
そんな彼女が何故叫んでいるか。
それは一昨日の出来事――。
「ねぇねぇ!」
部活の休憩時間。
部員にタオルやドリンクを渡していたら、突然声をかけてきた。
「何?英二。今私忙しいんだけど?」
「すぐ終わるから聞いて!」
「もぅ。すぐ終わってね?」
「大丈夫!!」
――ヒラッ――
と菊丸はテニス部公認のカップルだった。
休憩時間になると、菊丸がにくっつくのはいつものことで。
は目の前に出されたものをまじまじと見てしまった。
「何これ。」
「何って。見ての通りチケットだけど?」
「それは見てわかるよ。どうしたの?ってこと。」
「昼休みに不二からもらったんだー。『僕、これもう観ちゃったしさんとでも行って来なよ』って。」
「そう。不二君にしては気が利くじゃない。」
。恐れを知らず。
「で。これっていつまでなの?」
「なんか明後日までらしいよ?ちょうど部活も休みだし、行かない?」
「いいよ。じゃぁどこで待ち合わせする?」
「青春台駅の改札口前に9:30でどう?」
「わかった。遅れちゃやだよ?」
「こそ遅れないでよ?」
菊丸はチケットをに手渡し、集合がかかった所に移動した。
―――――そして現在。
「なんで英二は来ないわけ?」
駅内にある時計に目をやってみる。
針は9:45を指していた。
とっくに約束の9:30など過ぎている。
「遅れちゃいやだって言ったじゃない…」
周りは男女二人で歩く姿が多く、よく目に付いてしまう。
目に付く度、何か悲しいものが込み上げてくる。
「英二…」
そう呟いた時――。
向こうから走ってくる人影が見える。
息を切らし、一目散に改札口に走ってくる。
それが誰なのかは、にはもうわかっていた。
「はぁ…はぁ、。遅れて…」
「ばかー!!」
は菊丸と知るなり、抱きついた。
「私、遅れちゃいやだって言ったよね!?」
「う、うん…」
「あたし、もう20分も待ってたんだよ!?」
「ご、ごめん…」
「…もう…英二、来ないかと思った…」
そう言っては泣き出した。
菊丸の胸に顔をうずくめながら。
「待たせてごめん。俺が家、出ようとしたら兄ちゃんに捕まって。それで―…ホントごめん。」
「ううん。もう英二が来てくれればそれでいい。」
それから二人は不二からもらったチケットの映画をやっている映画館へと行ってみた。
だが――。
「え!?もう終わった!?」
「はい。この上映は昨日で終わりましたが…」
「そうですか…」
「英二。どうだった?」
「もう全部終わってるって。」
「そっか。残念だね。」
「ったく。不二ー!これ貰った時は『明後日までだからね』って言ってたのにー!!」
「まぁ、終わったことはしょうがないよ。」
「そうだけどさ。」
「ねぇ。まだ時間あるし、ちょっと歩かない?」
「いいけど…、寒くない?」
「ん、平気。」
「でも一応―…」
そう言って菊丸は自分がしていたマフラーをに巻いてあげた。
「ありがと、英二。英二は寒くないの?」
「俺はダイジョウブ。だてにテニス部で鍛えてませんよー。」
「でも、寒さは別物じゃない?」
「んー。そう言われればそうなんだけど…あ!ちょっと手貸して?」
「え?手?」
は言われた通りに手を出す。
それを菊丸はしっかりと握った。
「よっし。これで俺も寒くないよん。」
はにっこり笑って、菊丸とつながれた手を見ていた。
「暖かいね。」
「でしょ?恋人同士の冬の醍醐味って、やっぱコレだと思うんだよね。」
「そうだねー。恋人同士の特権って感じ?」
「そうそう。で、これからどこ行く?」
「そうだね――」
二人は冬空の下、しっかり互いの手のぬくもりを感じながら歩き出した――。
手を握るだけで、こんなに相手の熱が伝わってくるなんて思ってなかった
英二の熱と、私の熱が統合して心地よい暖かさとなる
この寒い冬空の下、私は幸せと暖かさを持って
これからも、最愛の人と並んで歩いていられることを
今、神様に小さく祈る――
End
++あとがき++
寒い日は大好きな人と一緒にいたいですよね。
暖めて欲しい!!(笑)
(2004,5,20 一部改正)
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